カテゴリー: 2025年

  • 地図を持たない旅行者【12月】

     湯川秀樹氏(1949年日本最初のノーベル賞受賞者※、中間子の存在を予測)にこんな言葉がある。 
     「未知の世界を探求する人々は、地図を持たない旅行者である。地図は研究の結果としてできるのである。目的地がどこにあるかはまだわからない・・・」
     とすれば、現在を生きる私たちだって、地図を持たない旅行者であろう。
     彼のいう旅行者とは、研究者を指すので、ちょっと質は異なるが。
     私たちは、社会の変化、地球温暖化、AIの爆発的な普及等々の中で正解を求めつつ生きている。
     その上、政治家の利己的な野心による他国侵略や関税をかけまわる人などが我が物顔で動き回る中で、正しい方向が見えにくい中で、正しい行動を要求されている。

     こうした混迷を極める時代には、いろんな所に足を運び、いろいろな催しに参加や参画なりをすべきである。「人も歩けば棒に当たる」行動力が必要である。
     11月の挨拶で、最も大きな現場感や影響力を持っていそうな、大阪・関西万博を取り上げた。
     大阪・関西万博に訪れ記憶に残り、人々の人生に立つであろうレガシーを提案した。
     「静けさの森(生物の動的平衡を見せてくれた)」を、生物多様性を実感できる場として維持・保存してほしいレガシー主張。
     この時、生物の持つ利他性に触れなかったが、本来生物の持つ利他性は重要なことなので、追記しておきたい。

     大阪・関西万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」とある。
     People’s Living Lab(未来社会の実験場)として、多様な先端技術を社会で試し、実装につなげるものとして機能していた。

     嘗ては、展示物を見る、説明を受け、パンフレットをもらうというものから、
    今回の取組みは、映像で大きくイメージを伝え、そしてIT技術を用い、個人の関心度に応じて、学習できる参画型展示が多くなっていた。
     ウーマンズ パビリオンなどテーマを持つパビリオンでは、展示よりワークショップや参加型シンポジウム等で取り組み行動を深める設計となっていた。
     このパビリオンは、カルティエ財団が支援をしており、美しい服や素敵な小物を持ったモデル(?)さんらしき人も参加しておられ、文化の香りまで楽しめた。
     日本館においては、日本国を取り囲む海を活用して「循環型」の取組み価値を体験できる設計だった。
     人気キャラクター「ハローキティ」で32種の藻類のオブジェも面白い。
     地球温暖化や、食糧問題の切り札としての藻類の提案は、可能性に満ちていた。
     また、万博会場で出る生ごみを微生物の力で分解し、バイオガスエネルギーに変えるプラントの仕組みもわかりやすかった。
     その上、展示から一層中味を深める見学コースまで用意して、取り組みの実装方向を示していたのである。
     12月の挨拶は、第二レガシーとして、「ミャクミャク君」について語りたい。
     今回の大阪・関西万博で、テーマとキャラクターがこれほど合っていたのは、秀逸を超えて奇跡である。
      テーマ   :命輝く未来社会のデザイン
      キャラクター:ミャクミャク君
     このミャクミャク君は、出生や趣味についていろいろ言われているが、私は、人の体の中にいる細菌を表現していると思う。
     これをミャクミャク君Ⅰ号とする。
     もう一つは、私たちが直接その機能が見えない最先端AIもミャクミャク君Ⅱ号であろうと考える。

     ミャクミャク君Ⅰ号
     私たちに見えるからだの中にいる細菌たち、この細菌数は100兆個から1,000兆個と、訳の分からないオーダーである。
     私たちが生きている根本は、この常在菌のおかげであると思っている。
     人間は、この細菌の働きによって、元気に生活していられる。
     この細菌の大半が存在しているのが「腸」である。
     この細菌は少し乱暴だが、三種に区分される。
      ・私たちの健康に資する善玉菌(乳酸菌、酢酸等)20%
      ・悪玉菌(大腸菌-毒性株-、ウェルシュ菌、黄色ブドウ球菌等)10%
      ・そして、日和見菌(大腸菌-無毒性-、連鎖球菌、バクテロイデス等)70%
     基本的に善玉菌が優位であるが、不規則な生活やストレスから、日和見菌が悪玉菌に引っ張られ、アルカリ性に傾き、有害物質を生み出して、体を壊してしまうのである。
     私たちができることは簡単である。
      +・食物繊維を摂る
      +・発酵食品を摂る
      -・タンパク質や脂質中心の食事を減らす
      -・糖分・塩分を控える
     つまり、プラスを増やし、マイナスの要素を減らせばよいのである。

     そうすると善玉菌だけで良いかというと、悪玉菌も日和見菌もリスクマネジメントとして必要であることを申し添える。

     ミャクミャク君Ⅱ号
     直接人の目に見えないものを、AIソフトとして完成したものが、ミャクミャク君Ⅱ号と考えている。
     例① BNYのAIデジタル社員(AIのプラス面)
     BNY(バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)はAIデジタル社員として100名を任命している。
     このAI社員は、それぞれメールアドレスを持ち、内外とのやり取りをして、情報セキュリティ資格レベルまで付与されている。
     上司は人間となっている。
     こんな部下を持つと面白いのか大変なのか分からないが、今後の活躍次第で、本当の人間を必要としない可能性が高い。
     経営者にとっては朗報だが、労働者にとっては災難となる可能性大である。
     BNYの金融資産8,800兆円。
     例② ウォルマート(AIのプラス面)
     世界一の小売業だったウォルマートは、2026年2月に新CEOとしてジョン・ファーナー氏が就任する。
     彼の掲げる方針は、AIファーストとしている。
     株式も普通株式からナスダックへ変更するとしている。
     小売業は、カスタマーファーストを第一とした時代は変わろうとしている。
     彼は、ChatGPTと提携し、対話の中から商品購入の仕組みをつくろうとしている。
     例③ マレーシア(AIの電力消費による限界面)
     マレーシアは、今や経済発展し、国力をどんどん殖やしている。
     そして、SDGsの取り組みにも熱心である。
     そこで、同国の発展の為に、AIのデータセンターを計画している。
     このことで、英国シンクタンクエンガーの報告がある。
     それによると、2030年AIのデータセンターの消費電力は68テラワット時として、マレーシアの電力需要の30%を占める。
     この為には30年までに450億弗(7兆円)もの再生エネルギー投資を必要としている。
     旧エネルギーとの共存等このソリューションは多くの課題を抱える。
     こうした見通しから原発がソリューションとして提案されているが、AIの電力需要は、資源配分として相応しいかそうでないか等難しさを増している。
     また核開発をするとすれば、核廃棄物の処理や大災害下の安全性など困難な課題を抱えている。
     問題の上に問題という地図なき旅行者となる。

     今後、人々に目に見えないものの象徴として、健康を支える細菌であったり、仕事上の競争を決め手となる、AIなど目に見えないものが新時代を築くアクターとして出てきたと考える。
      テーマ   :命輝く未来社会のデザイン
      コンセプト :People’s Living Lab(未来社会の実験場)
      キャラクター:普通人の目に見えない「細菌を中心とするミャクミャク君Ⅰ

             号」、「コンピュータの中で人より賢い解を出すミャクミャク
             君Ⅱ号」として登場し、見えないものが見よというメッセー
             ジだと思う。
     
    人が見えないものを心眼で見て対処するときに、このAIソフトらしきものを超える英知を持っていると思いたいものです。
     今回、ここでは触れないが、落合陽一氏の「さようならホモ・サピエンス」というフレーズを、人々への惜別を意味するのか・・・を考えていきたい。

                               理事長 井上健雄

    ※2025年現在、ノーベル賞受賞者個人31名と1団体という成果を出した日本の先駆者

  • 生命(いのち)のレジリエンスを語る【11月】

    このあたりにも木枯らし一号が吹きました。(R7 11/3)
     寒い冬の始まりです。
    みなさま、風邪など召されず、ご壮健の活躍を祈念いたします。
    自然には、厳しさもある、やさしさもあるという、石川啄木(1886~1912)の二つの短歌(彼は三行詩とも表現)から始めましょう。

    いきすれば 胸のうちにて 鳴る音あり 凩よりも さびしきその音

    (悲しき玩具 1912年発行)


    ふるさとの 山にむかひて 云うことなし ふるさとの山は ありがたきかな
     

    (一握の砂 1910年発行)

     前者は、凩を前にして、一層の寂しさや肺結核による不調を感じさせる。
    ただ悲しき音に苦しんでいる。
    後者は、ただふるさと山に向い、思い出や悲しさやいろいろな思いもあるが、山の姿の安寧と優しさに、そして時には厳しさにもただ感謝している。
    詠んでいる私の心も暖かく満たされる。良かったなあ。

     啄木と同様に、誰もがいつも相反する気持ちの揺れ動きの中にあってこそ、人生を深く充実して生きている。

    人もそれぞれのふるさとの山を持っている。 私の山は—

    『おいおい そうじゃないだろう。長い間挨拶も書かずに、何をしていたんじゃ』
    これは失礼しました。
    啄木さんの歌で、少しばかりの報告をしたつもりですが—
    『おいおい、訳の分からないことを言ってないでちゃんとせい』
    という訳で私事報告です。

    「鬼の霍乱」で月々のご挨拶、長い不在で申し訳ありません。
    越えてしまえば大したことはないのです。
    越えてしまえば—

    生きていれば長い間にはいろいろな不調もあります。
    そうした時に、いつもなら自分の頭で、フィーリングで、予測対応をしてきたのです。
    しかし、その頭に霞が掛かるという霍乱だったので、自分での対処ができませんでした。
    そこに、周りの親愛と英知に恵まれて、霍乱対策のすべてが、ピタリ、ピタリと実行されて、私のレジリエンスがもとに戻ったのです。
    本当に有難いことで、感謝、感謝しかありません。

    お陰様でレジリエンス化して元気になったこの命、世間様のために「()(ハタ)を少しでも()にしたい」と(はたら)きます。

    我が団体は、2002年3月設立で、もう23年以上、エコロジーとウェルビーイングの活動を続けています。
    (団体名イー・ビーイングは Ecology+Wellbeing の合成語です)
    一言で表現すると「ウェルビーイング社会の実現」を目指しています。
    この為に、
    地球のレジリエンスの回復
    社会のレジリエンスの実現
    個々人のレジリエンス
    の充実が、必要です。
    みなさま、「端を楽にさせる」「働き」でこの三つをご一緒しませんか。

    さて、私のレジリエンス回復第一号のご挨拶は、地球のレジリエンス回復の一つとして、大阪・関西万博で目の当たりにした「生物多様性の力」なるものを語ります。

    〈私の万博ビックリ体験〉
    ・5月17日(土)ユスリカ大発生
    ウォータープラザにあるレストランで、夕方になるとビックリでした。
    大きなガラス面に、ユスリカ、ユスリカ、ユスリカで、外が見通しにくいほどにユスリカが貼りついていたのです。
    むかし見たヒッチコックのサスペンスの鳥のように不気味です。
    ウォータープラザ近くのトルクメニスタンパビリオンでも、外壁から展示品まで、ユスリカが貼りついて大変。
    他のパビリオン等も同様だったようです。

    ※イ.ユスリカ発生の第一報のとき、自然を切り取った為に、天敵が居なくて、ユスリカ天国になったのだ、と言われました。

    ・7月12日(土)ユスリカ発生から約2か月後。
    この時もう秋かと思う程に、赤とんぼ、鬼ヤンマ・シオカラトンボなどが乱舞していました。
    そうなんです。ユスリカを餌とするトンボの大発生で、ユスリカ天国に終止符が打たれたのです。
    私たちの食べている弁当にまでトンボに止まられて苦労する程に—

    ・8月3日(日) トンボ天国の約1か月後
    うるさいほどのトンボも減ってきて、落ち着いた風情でした。
    聴く所によると、このトンボを求めて、夕方から夜にかけて、烏やコウモリがやってきていたらしいです。
    そういえば、甲子園球場の2.3個分の「静けさの森」が万博にはありましたね。(プロデューサー:宮田 裕章氏 慶應義塾大学教授)
    万博の敷地内にあるこの森の果たした役割が、生物多様性を守る後背地として機能したからなのかなあと思いました。
    動的平衡館(プロデューサー:福岡伸一氏 青山学院大学教授)そのものを、万博会場の自然が「動的平衡」を見せてくれたのです。

     ユスリカ ― トンボ ― 鳥 のスペクタクルです。

     この連続しない三日間に、偶々その場に居合わせ、生物多様性による遷移に出会えたことに感激しました。(遷移あってますか?)
    自然の力は凄いとしか言い表せません。
    生物多様性の持つ意味を、生で体験できたのです。

    ※ロ.ユスリカも自然の動きで吸収されたのです。静けさの森、万歳です。

    万博会場におけるこの動的平衡を実際この目で見て、経験できたことは非常にクールでした。

    万博会場に出現した切り取られた「静けさの森」(樹木1,500本位の植樹、草花や池の配置されたもの)で動的平衡が成り立ったとすれば、私は、市街地にある街路樹をもう少し増やす(数も樹種も)ことで、自然回復をもっと促せるのでは、と思います。
    勿論、一本植えが主体になるとしても場所により2~3本とか5本が植えられていたら嬉しいですよね。
     素晴らしい自然を守る一歩を、それぞれの立場で始める必要があります。

    こうしたことで残してほしい万博レガシーに、私も一言主張します。


    一、静けさの森
    二、ミャクミャク君大モニュメント像
    三、木造建築の大屋根リング


    この三つがあれば嬉しい。
    私にとって、啄木の言うところの「ふるさとの山」の一つになるのになあ—
    これで、レジリエンス回復の挨拶とします。

    理事長 井上健雄

  • 明るい未来へのお誘い 【1月】

    瑞春のご祝辞を申しあげます                                        白梅のあと 紅梅の 深空あり    飯田龍太

    初春とか新年・・・の賀状を認める季(とき)が大好きなんです。                       明るい未来や素敵な出会い等を、連れてくるようで、ちょっとした興奮と、おかしなことに食欲もふえるんです。                                                     私は、「身体は、左脳より賢い派」なんです。世間は、左脳全盛でAI等デジタルツールが幅を利かせています。  もっと身体の声(現実的で一次的欲求的なもの)からスタートすべきなんです。                 私は、心・技・体を総合的に包み込んでいる身体(からだ)が80%制御し、頭は、せいぜい20%位と思っています。今、これが逆になって、左脳社会(つまり大都市社会)になっています。                    例えば、“犬はリールをつけて飼いなさい”のルールがあります。                       地方においてサルやイノシシ、クマまでが出てきて困っています。                       これは奥山で餌がなく里山もなくなり、まち中に餌を求めに来ていると言われてますが、それ以上に私は、屈強な犬がペット化し愛玩動物になり、その上、ロープに繋がれているので野生動物にとっては怖いものがないせいだと考えます。こんなルールで対処できるんですか?もっと身体を中心とした地域毎の考えを巡らすべきだと考えています。     天災は必ず起りますし、気候変動(地球温暖化現象等々)は、日々ボディブローのように地球環境を痛めています、もっと自然に寄り添う対策を打つべきです。大事なことは、『食べる』ことのできる社会を維持することです。           その為には、若者や壮年者・市民の一人ひとりが、今こそリベラルアーツ(一般教養)の一つとして、プラネタリーヘルス(地球の健康)について学ぶべきなんです。『未来のための環境塾』です。これは『大阪市』と『いのち会議』の主催行事で、後援として『関西SDGsプラッフォーム大学分科会』や『大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)』に支援をいただいています。ここでの学問は、単なる学という知識教育だけでなく、問うを大事にしたワークショップ展開を企てることで、知識を身体で知り、そして各自の個性を生かして、行動変容を伴うものになると考えています。知識としてプラネタリーバウンダリー(地球の限界)の状態を知り、そしてプラネタリーヘルスの方策をセミナーで学び、ワークショップで必要な環境行動を起こします。                      今、社会に不足しているブリコラージュ(手入れ、繕う)の思想も学べますよ。その上、友達も増え、コミュニケーション能力やリーダーシップも身につきます。さぁ、新春に意思すべきことは、誰もが「未来のための環境塾」参加することかも知れません。ご一緒しましょう!新年度もよろしくお願い致します。

    理事長 井上健雄