カテゴリー: 2016年

  • 経路依存を見直す

     仰(の)っけからで恐縮ですが、質問です。

    (状況) まずあなたは絵画ファンで、絵の価値について一家言を持っています。
    それなりに裕福です。
    数年前、一つの絵を200万円で買い、最近の芸術マーケットが良いのか、400万円になっているのを発見しました。
    (質問) あなたが今この絵を持っていないとしたら、さて400万円出してこの絵を買いますか?

     客観的な正解はありません。
     Yes、Noどちらをお応えになっても結構です。
     解答  □Yes  □No  さてどうでしょう。
     Noだとしたら、あなたは、今の絵を持ち続ける意味がありません。あなたは自分のポジションと結婚してしまっているのです。
     Yesなら、あなたは経路依存性に引きずられずに、合理的な意思決定ができる人です。
     経路依存とは、過去のアイデアや信念に影響され、新しい現在を正確に捉えきれない状態を言います。
     経路依存、これはこれで大事なことですが、一方で時代や周りの変化についていけてないことを表すことにもなります。
     いつもいつも合理的な意思決定できる人は、扁桃体に異常があって、愛着という概念が損なわれているのかも知れませんが…
     この絵画と同様に、仕事もそういう所があります。
     怠け者たちに囲まれて仕事をしてきた人が、知恵ある働き者の集団に入って見ると、自分が単なる凡人でしかなかったり、お荷物かなぁとがっかりしたりします。
     つまり経路依存に陥りやすい人は、新しい世界では使えない人になります。
     新しい場所で新しい仕事をしっかり遂行できる努力を払うことが出来る、これが使える人の条件です。

     私たちも経路依存に陥っていないかしっかり考えるべきです。
     その指標は、前年を超えるパフォーマンスを残せているかにあります。
     いつも新鮮な目で、新しい絵画、新常態に対峙しようではありませんか。

    理事長  井上 健雄

  • 雨降って地弛む ~いい意味での正のフィードバックをつくる~

    『雨降って地弛(ゆる)む』オイ!オイ!『雨降って地固まる』じゃないのか?
     いやいや、これはアラビアのことわざで『約束は雲、達成は雨』というものの一種なんです。日本のように年間1,500~2,000mm降る所とは考え方も違うんですよ。
     日本に近いのは、英語にある『Storm makes oaks take deeper root.』(訳)嵐が樫の木の根を一層深くする。

     日本の現状も最近は、雨が降ると特定場所への集中豪雨となることが多く、土砂崩れ等、地弛むによる被害が増えています。
     世界を見渡すと、雨の恩恵からできた川も、水不足により上流と下流や支流における水の取りあい紛争が始まっています。
     これが「偏在」(maldistribution)と言われるものです。
     温暖化なんでしょうね。悪分布が広がっています。

     北の北極圏において、アイス・アルベド・フィードバック効果により、全地球の2倍のペースで気温が上がっています。
     アイス・アルベド・フィードバックとは、氷で覆われた地表なら太陽光85~90%を反射しますが、氷が解けて海になると10%しか反射しないんですよ。
     つまり、氷が解ければ解けるほど気温が上がるという正のフィードバックが起こっているんです。

     そしてカナダの農民にとって、農作物の栽培期が年に2日延るという恩恵を受けています。
     また、北極海の氷が解けると、北極海を渡る北西航路が出現し、領土・領海の権利争いが起ころうとしています。
     パナマ運河の代替航路として、北西航路の現実味が、増してきています。
     温暖化によるアイス・アルベド・フィードバックが、北半球の経済を押し上げるというから、驚きです。
     つまり温暖化は、地球全体を危機に陥れ窮乏を招くものですが、ある地域においては金になるということです。
     温暖化でまず金を儲けたのは、アル・ゴアであろう。『不都合な真実』で4,900万$もの金銭的収入を得たとされる。少し皮肉ですが…
     北極海には世界の石油とガスの未開発資源の22%が眠っているとされるから、氷が解ければ解けるほど湧き出す石油、露出するレアメタルとなるのです。
     温暖化という地球の不幸は、ある国々にとって経済的・軍事的等の目的にとって、蜜の味でもあるのです。

     先程のイギリスのEU離脱Brexitは、ある人にとってはHappyかも知れないが、一方ではRegrexitと言われる後悔している人も大勢います。
     現代社会は、どれが正解かは決定後の行動で正を証明する以外、道はないのかも知れない。
     とすれば、私たちは何事につけても、決定後の確かなアクション、行動により、しっかり成果を創りだしていくことにあります。
     私たちも『約束は雲、達成は雨』を求められています。
     しっかりパフォーマンスを創りましょう!

    理事長 井上 健雄

  • 夏のおもひで

    夢はいつもかへって行った
    山の麓のさびしい村に
    水引草に風が立ち
    草ひばりのうたひやまない
    しづまりかへった午(ひる)さがりの林道を …
                    立原道造「のちのおもひに」

     夏になると、昔が帰ってくる。
     昔々であるが、子供の頃の私は、母の故郷によく帰っていた。
     そこで、風通しの良い広い座敷で昼寝などをしてボーとしていると、立原道造の詩がやってきて、現実感の乏しいロマンチズムに酔っていたものです。
     それらの一つが上の詩です。

     日本の四季は、いいものです。
     夏に限らず季節毎の思い出を必ず連れ帰ってくれ、現在を豊かにしてくれます。
     思い出の数々が、人生の意味、深さをくれますし、少しばかりの後悔まで。

     ひょっとしたら水引草があるかと、自然体験観察園に行くと、どうも見当らない。残念。
     植物を見分ける目が育ってくると、身の危険にも敏感になります。
     この間、道路の端に牧場からの脱走兵ならぬ、脱走草を見つけました。カモガヤです。
     これは危険です。花粉アレルギーの人にとって、要注意です。
     かれら(彼女らも含め)が牧場にいたら、牛さんも牧場主も喜ぶパートナーです。
     かれらが牧場にいれば、牛さんに食べられてもすぐに再生してきます。
     なぜなら生長点が株元にあり、先から食べられても食べられても再生できる構造なんです。
     その上、葉は食べにくいよう、かたい繊維質を発達させています。
     しかしそこは牛さんも負けずに、四つの胃で対抗しているのです。

     そこでカモガヤさんは、牧場に飽きたのか脱走して、都会の道端に出てきたのです。
     もともとイネ科の植物は、草食動物に対抗して進化してきたのです。
     つまり都会は、天敵の牛さんもいないから大成功です。
     その上、アスファルトや建物で土が少ないので、生存の為に沢山の花粉をまきちらかすのです。これが困りものなんです。
     私のように花粉、特に杉、檜、カモガヤに敏感な人間にとって、最悪です。

     しかし彼女(かれ)の身になれば、それぞれが持場でしっかり暮らせる風土が必要なんだと思います。
     カモガヤさんには、牧場に帰って欲しい。
     日本の牧場主さんが、しっかり牧場経営できる環境も、私たち一人ひとりがどう考え、どう行動するかにかかっているのでしょう。
     嗚呼(ああ)地球環境です!

     追憶は、アナログ的に、対策は、デジタル的に決めてみました。
     いやどうも…アナログ的ですかね。

    理事長 井上 健雄

  • 暑さに健康を考える

     この夏は暑い。
     梅雨だと言うのに、雲間からの日ざしも強いし、雨が降っても温度が下らない。
     熱中症注意報も連発されそうです。

     この暑さにむけて「健康」、「医療」を考えてみよう。
     「健康」の定義として、WHO(世界保健機関)は『健康とは身体的・精神的・霊的・社会的に完全に良好な動的状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない』としている。
     つまり健康は、一度成立したらそのまま健康かというと、そうではない。
     その状態を維持する努力により、動的な健康を保っていくことになるのです。

     従って現代の健康観は、「キュア」治療する・治すから、「ケア」注意する・対策をとるとかへパラダイムシフトしています。
     つまり健康を高め強化する要因に着眼し、それをサポートし強化をめざすことがポイントです。

     もっと端的に言えば、客観的健康から主観的健康へとなるでしょうか。
     心の健康(主観的な健康)が大事だということです。
     これはカナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「セルフエフィカシー」という。
     エフィカシーとは、自分が適切な行動を成し遂げられるという予測や確信感を指す。
     その為に、病気をやっつけることより、病気にならないよう健康を保つ行為に重点が移ってきているのである。
     転ばぬ先の杖なんです。

     また、医療の最先端ではIn-Body Hospitalなどというプロジェクトが進行中である。
     つまりナノサイズの「スマートナノマシン」を体内に入れて、がん組織等を個別攻撃する仕組みだ。
     昔、SF映画の「ミクロの決死圏」を見て驚いたものだが、そうしたものが現実化しようとしている。
     病気をやっつける現代のキュア作戦「トロイの木馬」である。

     私は「ケア作戦」でこの夏を乗りきりたいと考えています。
     この夏のむし暑さは別格ですね。
     そこで、ケア作戦の一つとして、食べ物を紹介しましょう。
     ゴーヤチャンプルです。ゴーヤでビタミンCを摂り、豚肉でビタミンB1、鉄、カリウム、リンなどで疲労回復させましょう。
     もっと疲れているならトウガラシを入れましょう。胃液の分泌、内臓を温めてくれ、食欲を増進させてくれます。
     食が細くなり食欲が湧かない時には食事前に梅干し、レモン汁などでクエン酸効果で、「食事をおいしくクエるン」ですとなります…

     下手な駄洒落も出たようですので、みな様「健康の主観的維持」にそれぞれワガママに対処され、この夏も健康でお過しください。

    理事長  井上 健雄

  • 安全の思想

     今となれば10数年前だが、六本木ヒルズ54F森タワーで痛ましい事故があった。
     回転ドアに挟まれた子供さんが亡くなられた。
     あのタワーの回転ドアは2.7tの自重があり、ドアの挟み力は8000N(ニュートン)もあった。
     子供の頭なら1000N、大人でも2000Nの力を受けると致命傷となる。

     この回転ドアは、制御安全の手は打たれていた。
     センサーは足元と天井に取り付けられていた。
     しかし子供が前傾姿勢で入ったため、足元センサーは作動せず、また天井センサーは地上より120cm以上のものに反応するよう設計が変更されており、117cmの男の子は感知されなかったのである。

     天井センサー設定に問題があったとしても、事故は起こるべくして起こったと言える。
     なぜなら、挟み力が1000~8000Nもの殺傷力を持った回転ドアそのものが問題だったのである。
     この回転扉のもとは、オランダのブーンイダム社で、日本でブーン・タジマという新会社が設立され、日本にやってきた。
     しかし会社の解散などにより、当初の安全仕様の思想が抜け落ちてしまったのである。
     つまり重厚感や耐風圧強度を出すために、骨材に鉄などを使い、重くなったのである。
     もともと軽く設計されて本質安全に応えていたものが、センサーによる制御安全に取り変わったのである。
     制御も大事だが、本質安全の軽量化を貫かなかったことが、大事故となったのである。

     企業等は、制御安全だけに頼らず、本質安全に取り組むべきである。
     日本において、1960年から子供の死亡原因は、ず~っと不慮の事故が第1位なのである。
     子供の好奇心には、ちょっとやそっとの制御安全で防ぐことは困難である。
     勿論親御さんの注意義務があるとしても…

     最近、ベビーカーが電車のドアに挟まれる事件が起こっている。
     ベビーカーの車輪を挟んだまま電車が出てしまっている。
     電車のドアは吊りドアであり、上が締まれば赤ランプは消える。
     ベビーカーの車輪が挟まった位では、赤ランプはつかないのである。
     ベビーカーメーカーとしては、電車に乗る時はベビーカーを使わない様にと説明している。
     しかし現実に事故が起こっているのであるから、電車のドアのあり方を変えよということはすぐには無理であり、ベビーカーメーカーが対処すべきなのである。

     たぶんこうしたちょっとした事故を放っておくと、ハインリッヒの法則(1対29対300)のように、300のヒヤリとしたミスがあれば29の中事故があり、29の中事故のあとに1の大事故が発生するという恐ろしいものがある。
     世のリーダーたる人々は、こうしたことをよく弁えて、小さなヒヤリから手を打つべきなのである。

    理事長  井上 健雄

  • エッセンシャル思考

     私たちは、いつも多くの仕事と使える少ない時間を持っている。
     それなりの仕事をしているビジネス・ヒューマンは、誰もがこうした状況に置かれている。
     この状況において、せっせとパフォーマンスをあげていく人と、仕事に溺れてどれもが不十分になっている人がいる。
     何が違うか。
     それは、トレードオフ思考ができるかできないかである。

     トレードオフとは、あちらを立てればこちらが立たず、両方を立てれば意味がない、そんな関係である。
     最も優先順位の高いものを選ぶこと、それが大事なのである。

    1. 高い給料 VS. 自己実現
    2. 安定した仕事 VS. ベンチャー、起業
    3. より早く VS. より良く
    4. 高い付帯サービス付運賃 VS. 付帯をそぎ落とした安い運賃


     最後4の例なら、ローコスト対策を徹底的に打ち出したサウスウェスト航空に対し、同じようにローコスト対策を取り入れた、コンチネンタル航空(現在ユナイテッド航空に併合)がある。
     古い例だが、貴重なトレードオフ例である。
     インターネットで検索されればいくらでも出てきますが、私が書いたものは2006年2月の今月の言葉で紹介している。
     古い例で恐縮だが、企業レベルの歴史時間に耐えているものである。
     サウスウエスト航空は、ハブ経由をせずに、地方から地方へのポイント・ツー・ポイントの取り組みによりコストを構造的に下げている。
     また、ローコスト化のために航空機を1種類に限定し作業効率を上げる、パイロットも掃除するし、食事提供なし、座席指定なし、チケットレス等々…極限にまでサービスを絞り、安さを創りだしている。

     つまり戦略的ポジションの確立の為には、別のポジションとのトレードオフなしには維持できないものである。
     ある意味で相手の良い所どりする、要領をかます、仕事を省エネでごまかす人々は、トレードオフから逃げているのである。
     が、逃げ切れず、小さなパフォーマンスというより失敗しか残せないことになる。
     コンチネンタルは、根本的なトレードオフすることなしに安さ、つまり少しのサービスという戦略を取ったことにしかならず、結果的に吸収されるということになったのである。

     もっと分りやすい例は、ジョンソン・エンド・ジョンソン社のタイレノール事件への対応がある。
     圧倒的な売上を誇る看板商品のタイレノール(解熱鎮痛剤)を服用した人が、相次いで亡くなるという事件があった。
     その時ジョンソン・エンド・ジョンソン社は、タイレノールを回収すべきか、株主への配慮として様子を見るか迫られた。
     彼らの「我が信条」に、顧客優先がはっきり示されていた。
     そこでタイレノールを回収するという意思決定をした。
     損失額は1億$を上回るものであったが、実行された。(後日、何者かが瓶に毒物を混入したことが分った)
     この対応は、ジョンソン・エンド・ジョンソン社の信頼を一層高め、株主にも評価されるものになった。

     このようにトレードオフは痛みを伴うが、しっかり正確な対応をすれば絶好のチャンスであることを忘れてはならない。
     このトレードオフの関係を多面的に整理し、絞り込んだターゲッティング決断を、私はエッセンシャル思考と呼びたい。
     この3月でH27年度も終了し、4月より新年度に入ります。
     みな様エッセンシャルして始めようではありませんか。

    理事長  井上 健雄

  • レジリエンスを鍛え2016に生きる

    レジリエンスという言葉が、静かに注目されつつある。
    強靭という意味で、不安な社会をしっかり生き抜く智慧のようなものだ。

    つまり今の世の中、激甚災害、地球温暖化大異変、テロそれに続く難民問題等々、不安の種は次々と出て大きくなる一方である。
    その上、中東分裂、EU亀裂、北朝鮮原発実験、中露の軍事膨張主義等々どれ一つとっても大クラッシュを引き起こす可能性がある。
    連鎖的に危機が拡大する可能性を抱えている。

    とすれば、私たち一人ひとりにとって自己の強靭さ、レジリエンスをしっかりつくってこの世に対処していかねばならない。
    そこで、レジリエンスを持って生き抜いた二人を辿る。

    一、アウシュヴィッツ生存者、ビクトール・E・フランクル。
    彼は日々の生存も、一日先のことなど全く見えない時に、日々を超えた大きな具体的な目標を描いたのである。
    『戦後、強制収容所で過ごした心理状態を人前で講演している自分を想像した』のである。
    どうしようもない状況にあっても、どうしようもない運命にあっても、自分の人生の意味を見い出せることを発見したのである。

    二、2001年9.11、世界貿易センターへのテロにおけるリック・レスコーラ。
    当時、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター(以下モルガン・スタンレー)は貿易センターの最大のテナントで、2700人もの人々が働いていた。
    それも南棟の43階から74階までの32階分まで使っていたのに、7人の従業員を失うだけですんだのである。
    これにはセキュリティ担当副社長のリック・レスコーラの果した役割が大きい。
    彼はベトナム戦争の退役軍人であり、勲章も受けた人物で、大災害に巻き込まれた時、人々がどう行動すべきかについて徹底的に訓練を課していたのである。
    職責からか、彼が7人の一人であったことは、大変残念なことである。
    しかし彼の業績は高い。
    モルガン・スタンレーは、職場が使えない時に備え、従業員が一堂に集まって執務できる予備オフィスを3つも確保していたのである。
    たぶん9月10日までは、心配しすぎの無駄金使いと呼ばれていたであろうが、9月12日以降は、天才になった。

    つまりレジリエンスの高い人とは、次の三つの能力を持っている。

    1. 現実をしっかり受け止める力
    2. 人生がどんな状況であれ、なんらかの意味があるという強い信念
    3. 超人的プリコラージュ(即興力)、臨機応変の才能

    私たちもこれらの順番どおりの理解をすることが求められている。
    最初からプリコラージュで始めると、本質的な解決につながらないだろう。
    2016年1月のありがとうを、厳しい現実に対し私たちのあるべきレジリエンスについて言及した。

    理事長  井上 健雄